ハオコゼの恐怖
小田原の堤防で小物釣りをしていた時のこと。キス釣りの予定だったが、まず最初に仲間の竿に掛かったのは、数センチの赤い小魚。ハオコゼだ。「これは絶対に素手で触っちゃだめだ。鰭に毒があって、刺されるとたいへんなことになる。」素人には危険なので、慣れている私が針をはずしてあげることにした。足で踏んずけて魚体を固定し、針だけを持ってフックオフ。まあ、手馴れたものだ。「次は、キスを釣ってね。」ところがこの日はどうしたものか、次から次へとハオコゼばかりが釣れる。3人の仲間はいずれも素人釣師で、私はハオコゼの針はずし係として大忙し。自分が釣りをする暇もないほどだ。
私のミスは、ハオコゼの針はずし10匹目くらいの時だった。釣り上げられたハオコゼは、暴れることなくじっとしている。次第に敵を甘く見始めていたそのころ、足で固定せず、針だけを持ってはずそうとした。その時だった。やつは、突然跳ねた。「ん!」私の左手の中指の先に、僅かに接触した感覚が。見ると、針の先ほどの傷がある。もしや。中指を強く握ると僅かに出血する。まずい。やつの背鰭の棘が、指先を直撃したようだ。慌てた私は中指を咥え、必死に血を吸い出そうとした。が、次第に激痛が指先を襲う。私はもう、釣りどころではなかった。5分後には、痛みは手首まで来た。10分後には、肘まで。20分後、肩まで激痛が走る。油汗たらり。「大丈夫か」と仲間は声をかけてくれるが、大好きな釣りを止めてうずくまり、「ううん、ううん」と唸っている私が、大丈夫なわけないだろう。「病院へ行った方がいいんじゃないか?」とも言われたが、仲間に気を遣って「大丈夫」と強がりを言っていた。本当は、痛みが肩を越えたら病院に行こうと思っていた。心臓まで来たら、やばいもの。
本当に苦しかった。痛かった。3時間ほどしてやっと痛みが和らぎ帰ることにしたが、左手は感覚がなく、車の運転は片手運転を余儀なくされた。左手の中指は親指ほどの太さに変身し、感覚が完全に戻るまでは一週間を要した。
ああ、ハオコゼって、ほんとに怖いのねー。今度釣れたら、誰か針はずしてー!
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